印象に残った症例
ファオックス フォアダイス病
患者さんは50歳代の女性で、数年来、脇の下の激しい痒みに困っていました。松田病院に来るまでに数軒の皮膚科を受診したが良くならなかったと話していました。女性の脇の下に生じた慢性のそう痒をともなう皮疹(丘疹)からファオックス フォアダイス病と診断しました。
この疾患は非常に珍しい疾患(あるいは診断がつかないだけかもしれません)で、最近では皮膚科の教科書からも名前が消えています。私も、皮膚科医になって初めて診断しました。ただ病気のことが書かれている教科書をみると、どの本にも難治で、時にアポクリン汗腺を切除する手術が必要と書かれています。
実際これまで受診した皮膚科の先生達も上手く治せませんでした。私も最初はステロイド軟膏で治療しようと思いましたが、当然これまでの先生も同様の治療をしていたはずで効かないのは目に見えています。そこで皮膚病治療の基本に立ち返り、その原因が発汗障害であるとのことから昨年発売になった腋窩の多汗症の薬が有効かもしれないと考え処方しました。
すると2週間後の再来時には、患者さんは汗もとまり痒みもすっかり無くなったと大変嬉しそうにされていました。たぶんこれが腋窩多汗症の治療薬がフォックス フォアダイス病の有効な治療薬であることを証明した世界で初めての症例だと思います。
バーベキューの火が衣服に燃え移った火傷
火傷の原因は様々です。その中でも、私の経験では、衣服に火が燃え移った場合(着衣着火)には広範囲に深い火傷を受傷される患者さんがほとんどでした。さて連休明けに、バーベキューの火が衣服に燃え移って火傷した5歳の女の子が受診しました。看護師から報告を受けた時は、たぶん相当重症で直ぐに大学病院に転送することになると思いました。
しかし予想に反して、その子は手のひらに数カ所小さい水疱と腹部に7-8cm程度のII度熱傷があるだけでした。どうしてこの子は、この程度の軽い火傷ですんだのか大変不思議に思いました。そこでお母さんに話しを聞くと、お母さんがその場に駆けつけると、その子は地面に転がっていたというのです。米国では衣服に着火した時の原則は、stop,
drop, and roll と教えるそうですが、日本でこのような教育が行なわれているかはよく知りません。
そこで何故、この子がこの原則を知っていたのか聞いたところ、お母さんが、科学漫画サバイバルシリーズに書かれていて、それをこの子は読んでいたとのことでした。確かにそのシリーズの火災のサバイバルには、stop,
drop, and roll が書かれていました。実際に、この子が一人でこの行動がとれたのか、誰かが指示したのかはよく分かりませんが、印象に残った症例でした。コロナの問題が落ち着いたら、皮膚科外来にも1冊用意して待合室で子供さんに読んで貰おうと思っています。
比較的新しいマンションの住人に生じたダニ咬傷
泉パークタウンにある比較的新しいマンション在住の90歳の方が、昨日から腕に痒いブツブツが出てきたと受診されました。診るとダニに咬まれた皮疹だと分かりましたが、どこで咬まれたかが分かりません。綺麗なマンションでダニがいるとは考え難
かったのですが、ひょっとして布団やベッドにダニがいるのかと考え、奥様にも受診してもらいましたが奥様は咬まれていませんでした。
この1週間どこか外出したかを尋ねましたが、どこにも出かけていないとのことでした。
それでは毎日何をしているのかとお聞きするとベランダで植物を栽培し、そこに野鳥が遊びにくるとのことでした。そこでその鳥が巣を作っていないか尋ねると、巣を作っていて最近その鳥たちが巣立ちをし、その巣を片付けたとのことでした。
そこまで聞くと、患者さんの皮疹が鳥刺しダニによる皮疹だという事が分かります。鳥刺しダニはヒトには寄生しないので、もうこれ以上心配いらないことを話して安心して帰って頂きました。
マダニの生け捕りに成功
最近、泉ヶ岳の野外実習でマダニに咬まれた小学生が受診しました。診るとまだ後頭部に生きたマダニが噛みついていました。
皮膚科のマダニ治療の原則は、マダニが日本紅斑熱、ライム病、ダニ媒介性脳炎、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)などを媒介するので、決して虫体の一部を残すことなく摘除することです。
そこで摘除後、皮膚に虫体が残るとその部分の皮膚を局所麻酔下に虫体ごとくりぬきます。ただ今回は、大学にいた時に購入していた tick twister
が役に立ちました。
大学病院にいる時は使う機会はありませんでしたが、今回初めて使いました。説明書を読みながらでしたが、見事に生け捕りに成功しました。
マダニは五体満足で虫体の一部を取り残すこともありませんでした。
患者さんは全く痛い思いもせずに帰れました。
原因が明らかになった接触皮膚炎
松田病院で働き始めて2ヶ月の間の、何人かのなかなか治らない、あるいは繰り返す湿疹の患者さんを治療しました。
その原因の中で圧倒的に多いのは、やはり染毛剤の接触皮膚炎です。皮膚科医の間では、染毛剤のほとんどに含まれるパラフェニレンジアミンという物質が原因で髪の毛を染めている人の頭皮、額、後頚部、顔、時に背中などに湿疹が出ることは良く知られています。
ただ症状は多彩で、頭皮や項に痒みのある赤い湿疹が出る程度から、目が開かないほど顔が腫れあがる人までいます。
残念ながら、科学がこれほど進んだ現在でも、パラフェニレンジアミンやその類似化合物以外に髪の毛を上手に染められる物質は見つかっていません。
正確に言うと、2つ程度は使える染毛剤があります。日々受診される染毛剤皮膚炎の患者さんに対しては、その治療を行なうとともに染毛方法について指導しています。
その他、数年来、手湿疹に悩まされていた患者さんの湿疹の原因が手袋に含まれる加硫促進剤であることをみつけ、加硫促進剤を含まない手袋にかえて症状が軽快しました。
また、なぜか右手のひらにだけある湿疹の原因がスマートフォンのケースの合成ゴムだと分かりケースを替えただけで直ぐに症状はおさまりました。
また、最近では、難治の目の周りの湿疹が眼科の先生から処方されている点眼薬が原因であることをみつけ、眼科の先生と連絡をとりパッチテストを行ないながら使える点眼薬を探しています。
仙台の住宅街にもいるマムシ
2022年の8月にマムシに咬まれた患者さんが松田病院を受診されました。2時間前にウッドデッキの階段を歩いていて突然の激痛を覚えたとのことです。その場には蛇、ムカデ、クモなどはいなかったとのことです。受診時、左踵が赤く腫れていて、そこに2ヶ所痂皮付着した小潰瘍がありました。また特徴的だったのは赤く腫れた踵から時々刻々と周囲に遠心性に拡大していく腫れでした。
恥ずかしながら、私はこれまで40年近く皮膚科医をしていますがマムシ咬傷の経験はなく、患者さんがマムシを見ていないこともあり、診断がつきませんでした。
しかし、ただならぬ臨床でこのまま経過を観察するわけにはいかないと思い、よく知っている大学病院皮膚科講師に電話で事情を説明し、診断と治療をお願いしました。その講師は、私の話から教科書などを調べ、マムシ咬傷と目星をつけていて、患者さんが受診されるとすぐに救急部と連絡を取り、その後の治療を引き継いでもらいました。大学病院受診時には、腫れは下腿中程までに広がり、翌日にはさらに大腿中程に達しました。また蛇の毒で筋肉も壊されて、筋肉が障害された際に高くなるCKという数値が10912にまでになりました。そのため患者さんの話では、2、3日間は真っ黒い尿が出たとのことです。救急部での処置が功を奏し受傷12日後に無事に退院されました。後日、お陰様で命拾いをしたと、わざわざ外来までお礼に来てくれました。
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