酒さ
日焼け、湿疹、ニキビ(ざ瘡)、膠原病など特別な原因がなく、顔が常に赤くほてった状態になる皮膚病です。
酒さには、1)顔、特に頬(目の周りは赤くならない)や額などが赤くなり、よく見ると細い血管が透けて見える毛細血管拡張症が混在するタイプ、2)それに加えて、一見ニキビ様の赤いブツブツ(丘疹)や膿疱が混在するタイプ、3)鼻が腫れる(鼻瘤)タイプの3つが存在します。またこれに加えて、顔にステロイド軟膏を使っていて発症するステロイド誘発性の酒さがあります。
なぜこの病気になるかのメカニズムはまだ十分にはわかっていませんが、Toll-like receptor 4 (TLR4)という分子が重要な役割を果たしていることが報告されています。またニキビダニとも呼ばれる毛包虫との関連も疑われています。
以前は、ステロイド誘発性酒さ以外の酒さの患者さんを診察する機会は稀でしたが、最近はそれほど珍しい病気という印象はありません。ただ意外に治療は一筋縄ではいかず苦慮します。ステロイド誘発性酒さという酒さがあるように、残念ながらこの病気には皮膚科医が最もよく使うステロイド軟膏が使えません。使うと一時的にはよくなりますが、やめると激しいリバウンドにより顔が真っ赤になってしまいます。
したがってステロイド軟膏以外の薬で治療することになりますが、それほど選択肢は多くはありません。現在この皮膚病にはロゼックスゲルという塗り薬が保険薬として認められていますが、これはそもそも切除不能皮膚癌や転移性皮膚癌の悪臭を抑えるために作られた薬で、酒さの患者さんのような敏感な皮膚にはあまり向いていないような気がします。処方しても再診時に使えなかったという患者さんがいます。
現在私が使っている薬は、メトロニダゾール内服薬、ビブラマイシン、プレドニン内服、病院の薬局で作っているメトロニダゾール外用薬、プロトピック軟膏、モイゼルト軟膏などですが、患者さんにより有効な組み合わせや使用のタイミングが微妙に異なり治療の難しい皮膚病です。
高齢者の皮膚そう痒症
大学病院で診療している時にはほとんど経験しなかったかあるいは見過ごしていた皮膚病です。松田病院で診療するようになり、特別な原因がなく全身の強い痒みを訴える年配の患者さんをしばしば診察するようになり、高齢者の皮膚そう痒症という皮膚病が存在することを知りました。
高齢者の痒みの2大原因は1つは皮膚の洗いすぎや加齢に伴なう皮脂分泌低下による皮脂欠乏性湿疹で、もう一つが薬のアレルギー反応で生じる薬疹です。これらは大学病院時代にもよく経験していましたが松田病院に来て皮脂欠乏症の治療をしてみても、薬疹を疑って被疑薬を中止ないし変更しても一向に改善しない皮膚そう痒症が存在することに気がつきました。そこで高齢者の皮膚そう痒症ということで、もう一度国内外の論文を調べてみると、この皮膚そう痒症は、原因不明慢性皮膚そう痒症あるいは老人性アトピー性皮膚炎の2つの病名で同様の症例が報告されていることがわかりました。どちらも非常に強い痒みが特徴で、さらにその痒みがステロイド軟膏や抗ヒスタミン薬では抑えられないとのことです。確かに私の患者さんもステロイド軟膏も抗ヒスタミン薬もほとんど効きませんでした。ただ残念なことに、この両疾患ともあまり特徴的な皮疹がないため診断が難しく、両疾患の違いもはっきりしません。
最近、全身に湿疹が認められた数人の患者さんにアトピー性皮膚炎の痒みに有効な注射薬を投与したところ、痒みが劇的に改善するのを経験しました。この注射薬が劇的に効くことを考えると、高齢者の原因不明の皮膚そう痒症の一部には老人性アトピー性皮膚炎と考えてもよい症例がかなり含まれているように思います。しかし残念ながらこの注射薬も高いお薬です。
薬診
薬疹も受診患者さん多い疾患の1つです。主治医の先生が薬疹を疑い、その先生からの紹介状持参で来られる方もありますが、多くは痒くて仕方ない皮膚病が出たと主治医の先生と相談なく受診されます。
薬疹の特徴は、固定薬疹という特別な病型を除いてほぼ全身に左右対称性に皮疹が生じる点です。また薬疹は、固定薬疹を除くと薬疹特有の皮膚症状というのはなく、他の皮膚病と類似した症状を呈します。そのため、似ている皮膚病にちなんで薬疹が病型分類されます。
例えば風疹やはしかのように見える播種状紅斑丘疹型、1cmから3cm程度の丸い赤い斑点が多発する多形紅斑型、蕁麻疹ができる蕁麻疹型、日光に敏感になり日に当たるとその部位に皮疹ができる光線過敏型、何かにかぶれたような細かい点状の皮疹が多発する湿疹型、全身が真っ赤になる紅皮症型、にきび様の皮疹が多発するニキビ型、乾癬という皮膚病が生じる乾癬型、扁平苔癬という皮膚病が生じる扁平苔癬型などです。
薬を服用していて全身に皮疹が認められる患者さんが来ると、皮膚科ではまず薬疹以外の可能性を否定します。似たような皮疹は、ウイルスや細菌感染でも起こりますし、膠原病やその他の全身疾患に伴なって出てくることもあります。まずこれらを除外して薬疹と診断します。そこまでは比較的容易ですが、問題はどの薬剤が原因かを明らかにすることです。薬疹は、原因薬剤をやめない限り決してよくなりません。しかし松田病院の皮膚科を受診される方、特に年配の方の多くは5種類以上、人によっては10種類以上の薬を内服しています。この中から原因となる薬を見つけることは至難の業です。
残念ながら原因薬を簡単に見つけられる血液検査はありません。DLSTと呼ばれる検査がありますが、その結果の解釈には注釈がついていて、陽性に出てもそれが原因ではないこともあり、陰性でも原因薬である可能性もあるので注意が必要と書かれています。これでは何を信じていいのかわかりません。
皮膚科医が行なえる方法は主に以下の2つです。1つは、薬を飲み始めたタイミングと皮疹の出現時期からの推測です。一般に、薬疹は七日目紅斑といわれ、薬を飲み始めて7日目以降30日以内に皮疹が出現します。これに当てはまる薬が見つかれば、まずそれを疑います。2つ目は、薬疹の特徴を利用する方法です。薬剤は多彩な皮膚症状を呈しますが、多数の患者さんで調べてみると、薬剤ごとに薬疹の病型に偏りがあることがわかっています。例えば、播種状紅斑丘疹型を起こしやすい薬や光線過敏を起こす薬などです。これが詳細にまとめられた薬疹情報という本が皮膚科医のよりどころです。ただ決して薬剤と病型が一対一対応しているわけではないので、それを元にして薬剤の変更中止を主治医にお願いする際には、それに加えて自らの経験を加味して、第一候補、第二候補と可能性の高そうな薬剤から順に中止していただきます。1回で原因薬が正確に同定できる確率は残念ながら50-60%くらいです。当然ですが、中止していただく薬剤を増やしていけば確率は上がります。
ただどうしても中止できない薬剤があると、そこで原因薬の検索は中断せざるを得ず、そうなると患者さんは薬疹とずっと付き合って行かなければならなくなります。その際はできるだけ症状を軽くする薬を処方しますが限界はあります。また先に述べたように、高齢者には原因不明慢性皮膚そう痒症あるいは老人性アトピー性皮膚炎という疾患もあり、ますます薬疹診断が難しくなっています。いずれにしても、多剤内服中の患者さんに出現した薬疹は簡単には治療できないことを、患者さんもまた投薬されている主治医の先生にもご理解いただきたいと思います。
尋常性乾癬
治りにくい皮膚病の代表で、日本人では1000人中1~2人くらいの人がこの病気を持っているといわれています。2、3cm程度の大きさのものから手のひらくらいまでの大きさの白い鱗屑といわれる厚くなった角質が付着した赤い斑点が全身に沢山できる皮膚病です。あまり痒くない患者さんと大変痒がる患者さんがいます。全身にできるといっても全身に均等に出るのではなく、頭皮、肘、膝、背中などによく出ます。乾癬の患者さんはこの病気で様々な制約を受けますが、人前に肌をさらす温泉やプールなどを楽しめないこともその1つです。爪が変形したり、体のあちこちの関節が痛くなりリウマチと間違われることもあります。また最近、乾癬の患者さんは、糖尿病・高脂血症・肥満などのメタボリック症候群にもかかりやすいことがわかってきました。言い換えると、以前は皮膚の病気と考えられていた乾癬ですが、実は全身に様々な影響を及ぼす疾患として見直されています。
治療は、今から20年前までは軟膏や光線療法という皮膚局所を対象にした方法しかなく、その効果も十分ではありませんでした。最近は分子標的薬という注射や内服薬でほとんど皮疹がない状態にまで治すことができるようになりましたが、残念ながらそれらの薬は乾癬を根治するものではなく継続投与が必要です。それでも月に1度、薬剤によっては3ヶ月に1度の注射で温泉もプールにも人目を気にせず行けるようになります。また同様の効果が期待できるJAK阻害薬という内服薬も使えるようになり、治療の選択肢が増えています。
松田病院皮膚科でも、2023年から日本皮膚科学会が認定する乾癬分子標的薬使用承認施設になり、これらの新薬を導入できるようになりました。
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