接触皮膚炎
俗に“かぶれ”とか“湿疹”とか言われる皮膚病です。何かのきっかけで体の特定の部位に痒いブツ病は、接触皮膚炎と診断されます。
山に行ってウルシにかぶれたとか、新しい化粧品を使ったら顔が痒くなったなど、直ぐに原因が思いつく例もありますが、原因がはっきりしないこともしばしばあります。原因が分からない状態でステロイド軟膏で治療しますと、ある程度は良くなりますが、いつまでたっても完治しません。
原因を明らかにするためには、患者さんがどういう生活を送っているのか、湿疹が出る前に特別なことをしなかったかなどのお話しを細かく聞くことから始めます。しかし最終的にはパッチテストという、疑われる化学物質を背中に貼って2日後、3日後にその部位が赤くならないかを調べる検査が必要になることもあります。言うまでもなく、原因が分かり、それを避けることができれば、接触皮膚炎は完治します。
乾燥性湿疹
これも松田病院皮膚科で患者さんの多い皮膚病の1つで、だいたい60歳以上の男性が受診します。原因はいたって単純で、体の洗いすぎです。ただ放置すると、貨幣状湿疹や自家感作性皮膚炎という皮膚病に発展します。
私達は体の洗い方を子供の頃に親から教えてもらいますが、その後は皮膚病にでもかからない限り、正しい体の洗い方を教えてもらう機会はありません。ただ残念ながら皮膚は老化します。特に皮脂の分泌が低下します。皮脂の分泌が低下しているのに、若い頃と同じように、石鹸やボディーソープをたっぷり使ってナイロンタオルでゴシゴシ擦れば、皆さん乾燥性湿疹になってしまいます。
実は私も乾燥性湿疹になったことがあり、50代後半からは陰部、脇の下、背中、顔以外はお風呂でもほとんど洗っていません。乾燥性湿疹は正しい体の洗い方(洗わない方法)を理解し実践すれば、ステロイド軟膏と保湿剤で直ぐによくなります。
アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎は、赤ちゃんから成人まで幅広い年齢層にみられる皮膚病です。痒みが強いのが特徴で、皮膚症状は年齢により異なります。赤ちゃんの頃は、主に口の周りを中心に首や胸に広がる湿疹です。その後は全身の皮膚が乾燥し、本来すべすべのはずの皮膚がざらざらした皮膚に変わります。幼稚園や保育園に通う頃になると肘の内側や膝の裏側、首周りなどに湿疹が集中し、皺の目立つガサガサした厚みのある皮膚になります。さらに中学生になると全身の皮膚が乾燥しガサガサし赤みを帯びたり、少し黒ずんだりします。成人になるとこれらの症状が更にひどくなります。
治療のポイント1は、早期に直すことです。できれば赤ちゃんのうちに、少なくとも小学校にあがるまでには直したいところです。年齢を重ねるにつれ、直るまでに時間がかかるようになります。
ポイント2はプロアクティブ療法と呼ばれる寛解導入、維持療法の実践です。
アトピー性皮膚炎もウルシかぶれなどの接触皮膚炎も湿疹皮膚炎に分類され、ステロイド軟膏が良く効きます。しかしアトピー性皮膚炎と接触皮膚炎との根本的な違いは、接触皮膚炎が単純に外的刺激のみが原因で引き起こされる湿疹で、原因が無くなれば再発しない皮膚病であるのに対し、アトピー性皮膚炎は外的刺激に加えて患者さんの体質が発症に大きく関与するため、一見良くなったように見えても容易に再燃する点です。
そのためにプロアクティブ療法が不可欠です。プロアクティブ療法は言葉で言えば簡単で、図に示す様に皮膚病を良くして(寛解)その状態を維持するという一言につきますが、実際に実践するとなると患者さん、その家族、皮膚科医師、看護師が一体となって取り組む必要があります。
ポイント3は、日頃のスキンケアーです。いくら頑張って軟膏治療を行なっても日頃のスキンケアーが間違っていれば、良い結果は得られません。
まずは入浴の仕方ですが、シャワーだけで済ませるのではなく湯船につかることが大切です。またその時の温度にも適温があります。適切な洗剤、シャンプー、リンスを選択し、ナイロンタオル、スポンジなどで過度に体を擦らないことも肝要です。入浴後なるべく時間を空けずにステロイド軟膏や保湿剤を塗ります。
ポイント4は、増悪因子をみつけだすことです。ポイント1から3を実践しても良くならないことがあります。その時には、何か増悪因子がないかを丹念に検討します。増悪因子には様々なものがありますが、多い原因としては接触皮膚炎、光線過敏、不適切な汗対策、細菌感染やウイルス感染などがあります。
ポイント5は、以上のポイント1から4を実践してもなかなか良い皮膚の状態すなわち寛解状態にまで導けない患者さんに対する対策です。最近、アトピー性皮膚炎を全く新しい作用機序で治療する新しい注射薬や内服薬が登場しました。これらにより従来の治療では寛解状態に導けなかった患者さんをステロイド軟膏との併用が原則ではありますが、ほとんど皮膚炎の無い状態にまで改善させることができるようになりました。
この治療を体験された患者さんのお話では、これまで四六時中悩まされていた痒みが全くなくなり生まれ変わったようだとのことでした。残念ながらこれらの治療は高額なので、いかに短期間で終了し軟膏主体のプロアクティブ療法に移行させるかが今後の課題です。
最後に、私は東北大学在職中、仙台市内在住の皮膚科専門医の先生達と東北大学アトピー性皮膚炎研究ネットワーク(TAReN)という組織を立ち上げ、東北メディカル・メガバンク機構と共同でアトピー性皮膚炎の背景にある遺伝、環境要因の解析を行ないました。その中で、確かにアトピー性皮膚炎の発症には俗に体質と言われる遺伝要因が関与することは事実ですが、それ以上に環境要因が大きく影響を及ぼしていることが分かってきました。
言い換えれば、多くのアトピー性皮膚炎は上手に環境要因(入浴の仕方、保湿、衣服、スポーツ、発汗など)をコントロールできれば、治療により完治できるということです。実際、生まれた直後から保湿剤を塗ることでアトピー性皮膚炎の発症が予防できることも報告されていますし、小児のアトピー性皮膚炎は軟膏療法で容易に完治させることができます。
そこで、松田病院皮膚科ではアトピー性皮膚炎完治を目標において治療を行なっています。具体的には受診時に実際に看護師が軟膏を塗りながら軟膏の正しい塗り方を説明します。また初診時には正しいスキンケアー、プロアクティブ療法についても詳しく説明します。再来時には何か治療の妨げになっているものがないかを確認します。またどうしても軟膏療法だけでは寛解に至らない患者さんには相談の上、注射薬や内服薬の投与も行なっています。
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