医療法人 松田会

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膝・下肢

前十字靭帯損傷

膝前十字靱帯とは


 膝前十字靱帯は膝の中心部にある靱帯で、スポーツをするうえで非常に重要です。他の靱帯に比して自然治癒能力に乏しいため、断裂すると膝のゆるみが残り、スポーツ活動などに支障をきたしてきます。前十字靱帯損傷を放置したままスポーツ活動を継続すると、ジャンプの着地やストップ動作、方向転換などの時に踏ん張りきれず、膝のずれによる再受傷を繰返すことになります。再受傷を繰返すと二次的に半月板や軟骨にも損傷が加わり、徐々に関節が壊れていくことになります。
 従って競技スポーツ選手には早期の手術をすすめています。手術は半腱様筋腱という膝の裏側の腱、もしくは膝蓋腱という膝の前の腱を靱帯の再建材料として行なっています。当院では、解剖学的2(3)重束再建術という方法で、より解剖学的に正常に近い靱帯をつくることを心掛け、治療成績の向上に努めています。
スポーツ復帰はほとんどの選手は可能ですが、早期にスポーツ復帰をはかると再断裂のリスクがあるので、最短で半年程度での試合出場を目標とすることになります。(一般的には1年程度かけて復帰をはかるのが安全であると言われています)
 事情があり手術ができない選手にはリハビリを中心とした指導をして再受傷のリスク軽減をはかっています。
 競技スポーツ選手でなければ、断裂を放置しても不自由のない方も多くいらっしゃいますので、しばらく経過をみて不自由を感じる方にのみ手術をおすすめしています。





前十字靭帯損傷 
   
正常例    
 
新鮮例   新鮮例
 
陳旧例   陳旧例

前十字靭帯損傷の主な症状


 怪我をした瞬間に「ゴリッ」「ボキッ」などの音がすることがあります。痛みや腫れが起こり、熱を持ち、膝の曲げ伸ばしがしにくくなります。2,3週間の安静に伴いこれらの症状は落ち着きます。しかし「膝がぐらぐらする」「力が入らない」「完全に伸びない・曲がらない」などの症状が残ったり、運動時特にジャンプ・カット動作などで「膝がずれる」という感じが生じることがあります。

前十字靭帯損傷の主な怪我の仕方


 主には、ラグビーやサッカー、柔道などで、膝の外側からタックルされたときなどに生じる場合と、バスケットボールやバレーボールなどのジャンプ着地時やカット動作などで生じる場合があります。前者は男性に多く、後者は女性に多く生じます。

前十字靭帯損傷の主な合併症


 骨の表面を覆っている軟骨や、骨と骨の間にある半月板などが傷む場合があります。また、他の靭帯も同時に傷める場合もあります。再受傷を繰り返すことにより、これらの合併症の頻度が大きくなります。

軟骨 
 
正常例   前十字靭帯損傷膝の軟骨障害
     
半月板 
 


前十字靭帯損傷の診断


 専門のスポーツ整形外科医が診察します。怪我の状況を確認し、膝の状態(腫れ、曲がり、キズの有無、熱感の有無、弛みの有無)を診ます。単純レントゲン写真で骨折などの有無を確認します。その後靭帯の損傷部位・損傷形態や、軟骨・半月板損傷の有無などの確認のためMRIを行います。また必要に応じて靭帯の弛みの検査を行うこともあります。
 また症状の緩和及び診断のため、針を刺して膝の水(靭帯損傷の場合はほとんどが血液)を抜くこともあります。
 怪我をしても、約4週前後で自然に急性期の症状は回復することが一般的です。その時に、治ってしまったと思い、怪我をしていることを知らないまま生活いている方も多いようです。個人で簡単に判断せず、専門の医療機関の受診をお勧めします。

前十字靭帯損傷の治療方針の決定


 靭帯損傷(完全断裂・部分断裂も含め)であることが確認できたら、現在の状況、今後の見込みなどを説明し、御本人の希望なども考慮し治療方針を決定します。
◎手術治療を選択する際の問題点
靭帯損傷の診断を受けられた方には以下のような質問をよく受けます。
・時間が取れない(入院は約2-3週)
・仕事が忙しい
・学校が忙しい(出席日数が足りなくなる)
・大会が近い(復帰まで約9ヶ月から1年)
・本当に手術しないといけないのか
・なんとか手術しないで治らないか?
・治ったという人が周りにいる
・お金がない
・怖い など
このような不安・疑問はもっともです。手術するしない、その時期などご相談いたします。

MRI撮影の例


手術に向けて(術前リハビリ)


 手術時には、痛みや腫れがなく、曲げ伸ばしがスムーズに出来る状態で臨むことが望ましいので、それらを促すようなトレーニングを指導します。また、靭帯の機能不全により筋力の低下が生じるため、これらの予防に努めます。手術を望まれない方も、膝の曲げ伸ばしの回復、筋力低下の予防などを含め、通常の生活動作に支障ないレベルに回復できるよう指導します。

手術(再建術)


 一度断裂した靭帯は、断端が吸収されたり、本来とは別の場所にくっついたりして、靭帯の機能の維持は困難です。手術は別の部位から腱を採取して、新たに作り直す方法が主流です。
 膝屈筋腱を使用する方法(ST(G)法)と骨付き膝蓋腱(BTB法)を使用する方法を行っております。どちらの方法も、より本来の靭帯の機能が獲得できるよう術式を工夫して行います。
ST(G)法
半腱様筋腱(薄筋腱)という膝の裏側の腱を利用します。
【利点】
・腱を採取した部分の痛みが少ない。
・手術の傷が小さい。
・手術後の筋力低下が少ない。
【欠点】
・手術当初の固定力が弱い。
・緩みがBTB法に比較し、わずかに生じやすい。
BTB法
膝蓋腱という膝の前の腱を利用します。
【利点】
・骨と骨を固定するので、初期の固定力に優れている。
【欠点】
・腱採取部の膝前面に痛みが残る場合がある。
・傷がやや大きい。
・膝を伸ばす力の回復が遅い。
 以上のような利点・欠点などを十分に説明し、患者さんのスポーツの種類、体格、性別などから総合的に判断し、よりよいと思われる方法を選択しお勧めしています。

退院に向けて(術後リハビリ)


 術式にもよりますが、術後約1週間より徐々に膝の曲げ伸ばしを開始し、少しずつ足を着いていきます。約2-3週間で松葉杖を卒業し退院となります。入院中の経過予定はクリニカルパスを作成し、よりスムーズにリハビリが進むようにしています。
 退院後は術後3ヶ月までは、週1-2回のリハビリ通院をお勧めしております。また、その間は簡単な装具の装着を行います。遠方の方は、近くの病院などと連絡を取りながらリハビリプログラムを進めることも可能です。
 リハビリメニューを進めるにあたっては、筋力・膝の安定性・MRIでの再建靭帯の所見などの評価を定期的に行い、スポーツ整形外科専門の理学療法士・トレーナーが、膝・体のバランス感覚や、各種運動プログラムの進み具合を確認しながら、個人・スポーツ種目にあったアドバイスを行い、より早期により安全に元の競技に復帰できるよう指導しています。
 概ね、3ヶ月でジョギングレベルの運動を開始し、6か月でダッシュやジャンプなどの実践的な動きを開始し、8-9ヶ月で競技復帰を目指します。

前十字靭帯再建術を受けた方の退院後の注意点


 術後初期の再建靭帯は、非常に弱く、乱暴な動作により、線維の部分断裂を生ずることがありますので注意してください。
 再建靭帯は1年程度かけて少しずつ丈夫になっていきます。手術後3ヶ月は靭帯と骨の固着が不十分なので走らないよう充分に注意してください。
 負荷の軽い動作でも極端にやりすぎると同様に靭帯の破壊がおこるリスクがあるので注意が必要です。
 特に退院後2-3週はゆっくりとした歩行を心がけてください。
 初期のトレーニングは、体幹、股関節のトレーニングを中心に行い、手術をした膝には過度の負荷が加わらないよう注意してください。
 体幹トレーニングには、軸のブレを少なくして再断裂を予防する効果がありますのでしっかりと行ってください。
 3ヶ月で、MRI,筋力測定などの検査結果がよければ、軽いジョギングレベルの動作を許可しますが、積極的な動作は控えてください。ランニングをやりすぎると靭帯の緩みが起こります。この時期には膝の筋トレレベルを上げていきます。
 5ヶ月で安全なレベルのフットワークをリハビリ室にて練習します。
 6ヶ月でMRI、筋力測定にて問題なければ、ジャンプ、ステップなどのスピードのある動作を許可します。その際、リハビリ室で安全な動作に指導を受けてください。リハビリメニューはより実践的な動作訓練に移行します。
 7ヶ月以降で動作が安定してきた段階で、短時間のチーム練習参加を目指します。
 コンタクトスポーツの場合、初期のチーム練習では、コンタクトしないよう注意しましょう。
 早期の試合出場を目標とすると、再断裂のリスクが極端に高くなるので注意してください。
 成績不良例は、術後3ヶ月から6ヶ月の過度の負荷が原因となっていると思われるので、この間は特に注意が必要です


膝前十字靭帯再建術後のトレーニングについて


トップアスリート用
 前十字靭帯再建術は、自分の腱(ハムストリング腱か膝蓋腱)を移植する手術であり、移植した腱(靭帯)が丈夫になる前に負荷をかけすぎると部分断裂や再断裂の原因になります(靭帯がボロボロになります)。手術の結果が最も悪いのは、早期に膝に負荷のかかるトレーニングをやりすぎた選手達です。
 トレーニングのやりすぎにより、靭帯線維の微小断裂が繰り返し起こり、これが部分断裂につながります。
 事実、受験生や仕事の多忙な社会人は、早期復帰を目指さないため、トレーニングをやりすぎることはありません。その結果、大多数が、良好に治癒する傾向にあります。
 トップアスリートは、最短コースでの復帰を目指すものの、治りが悪ければ、将来の夢が断たれることにつながりますので十分な注意が必要です。
 手術後、6-8か月程度の期間、膝の中で靭帯をゆっくりと育てていくイメージが重要です。手術後1年のMRIの状態がよければ、ほぼ完治したと考えてよいと思います。

 手術後、6か月後より個人練習を開始しますが、それまではかなり抑制的にトレーニングをしていかなければなりません。
 手術後、一生懸命にしてほしいトレーニングは、体幹、股関節のトレーニングです。
 体幹を強くし、股関節を柔らかく使えるようになると靭帯損傷の予防にもなります。
 膝のトレーニングは、バランストレーニング、ウエイトトレーニングを中心に行いますが、膝のウエイトトレーニングは、2-3日に一度を目安にします。回数の多いトレーニングや動作に反動を使うトレーニングは靭帯に過度の負荷が加わると思われるため禁物です。
 手術後3か月でジョグ可となりますが、ウオームアップ程度のジョグにとどめ、動作にスピードをつけてはいけません。
 3か月後以降は、ウエイトトレーニングに関しては、負荷を徐々に挙げていって構いません。
 ボールコントロールに関しては、3か月までは、椅子に座った状態で行うのが安全です。
 3か月後以降は、歩行レベルで行ってください。
 5か月程度で60%-70%程度のスピードでフットワークの練習に入ります。
 半年以降より、個人練習を始め、7ヶ月以降での部分的なチーム練習参加を目指します。
 この時点でも靭帯の強度は不十分であると考えられているので、練習量には注意が必要です。
 手術後9ヶ月程度でのMRIチェックがおすすめです(一般の患者さんにはおすすめしていません)。
 通常、手術後半年までは、病院で主治医、理学療法士とよく相談し、安全なトレーニングを心がけてください。

具体的なトレーニングの内容
 退院後、積極的にしてよいもの
1、体幹トレーニング:筋力強化、柔軟性の改善を目的とするもの
2、股関節のトレーニング:筋力強化、柔軟性の改善を目的とするもの
3、バランストレーニング:バランスディスクなど
 上記は、負荷、量ともに制限しない
4、エアロバイク:心肺機能の維持、強化を目的とする。
 時期に応じ、負荷、時間を加減していく
5、水中トレーニング:極端なトレーニングでなければ、もも上げ、水泳共にOKです。
6、膝の可動域訓練、筋力強化
 筋力強化は通常筋肥大を目的とするので、術後3か月以降においては、ウエイトトレーニングはスプリットルーティンが望ましい(筋トレを、上半身の日、下半身の日などに分け、膝の筋トレは、週に2-3日にとどめ、筋肉に休息を与える日を作ること:毎日負荷をかけすぎるのはよくありません)ウエイトトレーニングは、良いフォームで反動を使わずゆっくりと行うのが安全で効率よく筋肉に負荷がかかります。スロートレーニングという概念です。
 1セットの回数は、10回から20回程度とし、安定したフォームでゆっくりと行うことを意識します。

 積極的に行うとリスクが高いもの
 ランニングなどの動きを伴うトレーニングは、加速度がつき、靭帯に過度の負荷が加わることが危惧されますので、術後半年以降が安全と思われますが、術後5か月程度で個人練習レベルの準備として、リハビリ室で実際の動作をみてもらうのはよいと考えています。
 エスカレートしていかないよう抑制的に行うことが重要です。

抜釘術について


 術後1年ほどすると脛にあるボルトを抜く手術を受けられる方もいます。必ずしも抜釘術を受けなくてはならないということはありませんが、当院では以下の点からお勧めしております。
1. 体にある余計な金属を取り去る。
 ただし、太ももの金属は取らないことがほとんどなので、あまりきちんとした理由ではないかもしれませんが、患者さんによっては少しでも余計な金属は取っておきたいと希望される方もいます。もちろん太ももの金属もとることは可能ですが、余計な傷が増えてしまいます。
2. 患者さんによっては金属部に痛みを感じる方もいます。
 寒くなると、もしくは気圧が下がったりすると痛み(違和感)を感じる方がいます。こういった方にはお勧めしています。
3. 再建靭帯の評価
 再建靭帯が実際にどのように成熟しているかを確認することにより、今後のスポーツ活動への指標となりうる。
4. トラブルの回避
 これは起こらないに越したことはありませんが、再断裂を起こしてしまった場合の再々建時に金属を抜いた直後に改めて金属を打ち込むことによるトラブル(表面の骨折など)を避けるために、前もって抜いておくと、トラブルが解消できる。
 また、抜釘術をするかどうかを考える際によく麻酔の心配をされる方がいます。
 抜釘時は腰からの麻酔はいたしません。よっておしっこ管も入れません。翌日には退院となり、普通の生活に戻れます。
 あくまでも患者さんの希望であり、強制するものではありません。外来でよく相談してください。

 以上、前十字靭帯損傷の治療の流れを説明しました。当院では、御本人が十分に病態を理解し、納得のいく治療を受けて頂くことが、何よりも大切と考えております。心配なこと・疑問なことがありましたら、遠慮なさらずお聞き下さい。

再建靭帯


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